1.モルモットの乳腺癌とは?
モルモットの乳腺腫瘍には、良性の乳腺腺腫や悪性の乳腺癌など、複数の種類があります。外見や触診だけで良性・悪性を確実に区別することはできません。
2024年に報告された85例の乳腺・鼠径部腫瘍に関する研究では、乳腺腫瘍のうち、メスでは良性腫瘍が多い一方、オスでは悪性腫瘍の割合が高いことが示されました。また、2025年に発表された117頭の乳腺増殖性病変の組織学的研究でも、オスで悪性腫瘍が多い傾向が確認されています。
これらの研究から、モルモットの乳腺腫瘍はメスだけの病気ではなく、オスにも発生することが大きな特徴です。オスだから乳腺腫瘍にならない、あるいは良性だと考えるのは危険であることが分かります。
2.病態:乳腺癌はどのように進行する?
① 腫瘍の形成
乳腺細胞の増殖制御に異常が生じると、局所的に細胞が増殖し、皮下のしこりとして触れるようになります。
初期には小さな腫瘤として見つかることがありますが、時間の経過とともに大きくなる場合があります。
② 周囲組織への浸潤
悪性腫瘍では、腫瘍細胞が周囲の皮膚や皮下組織などに入り込み、腫瘤が周囲と癒着することがあります。
腫瘍が大きくなると皮膚が引き伸ばされ、炎症や潰瘍、出血を伴うこともあります。
③ 転移
悪性腫瘍の細胞が血管やリンパ管に入り、肺やリンパ節などの離れた臓器へ移動することがあります。
モルモットの乳腺癌では、転移が少ないとする報告もありますが、転移が起こらないわけではありません。剖検症例を対象とした研究では、乳腺腺癌の一部で転移が確認されています。
したがって、腫瘍が小さい場合でも、必要に応じて転移の評価を行うことが大切です。
3.主な症状
飼い主さんが気づきやすい症状には、次のようなものがあります。
- 胸部や腹部、鼠径部にしこりがある
- 腫瘤が硬い、または周囲の組織にくっついている
- 腫瘤の表面の皮膚が赤くなる、ただれる、出血する
- 腫瘤を気にして舐めたり、触られるのを嫌がったりする
- 食欲が低下する、体重が減少する
- 活動性が低下する
ただし、これらの症状は乳腺癌に特有のものではありません。脂肪腫や皮膚腫瘍、膿瘍などでも、似たようなしこりが認められます。
しこりがある場合には、見た目だけで判断せず、動物病院で検査を受けましょう。
4.検査:どのように調べる?
乳腺腫瘍の診断では、腫瘤そのものの性質を調べるとともに、手術が必要か、転移が疑われるか、麻酔に耐えられる状態かを評価します。
① 身体検査・触診
腫瘤の位置、大きさ、硬さ、可動性、皮膚との癒着、潰瘍の有無などを確認します。
乳腺以外に発生した腫瘍が、乳腺のしこりに見える場合もあるため、発生部位を慎重に確認します。
また、体重、食欲、排便状態、呼吸状態などを確認し、全身状態を評価します。
② 細胞診
細い針で腫瘤の細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。腫瘍細胞の特徴を確認することで、乳腺由来の腫瘍や悪性腫瘍を疑う手がかりが得られます。
一方、採取できる細胞の量や性質によっては、良性・悪性の判定が難しいことがあります。また、細胞診だけでは腫瘍全体の構造や浸潤の程度を十分に評価できない場合があります。
③ 画像検査
腫瘤の大きさや周囲組織との関係を調べるため、必要に応じて超音波検査などを行います。さらに、転移が疑われる場合や悪性腫瘍が強く疑われる場合には、胸部X線検査などによって肺を評価します。
腹部超音波検査やリンパ節の評価も、腫瘍の位置や症状に応じて検討します。
ただし、画像検査で明らかな異常がなくても、微小な転移を完全に否定することはできません。
④ 血液検査
血液検査では、貧血や炎症の有無、腎臓・肝臓などの機能、電解質の状態などを確認します。
モルモットは食欲低下によって全身状態が悪化しやすいため、手術を検討する際には、栄養状態や脱水の有無なども重要な評価項目です。
⑤ 病理組織検査
乳腺腫瘍の確定診断において、最も重要なのが病理組織検査です。
手術によって切除した腫瘍を病理検査に提出し、腫瘍の種類、良性・悪性の区別、細胞の異型性、周囲組織への浸潤などを調べます。必要に応じて、切除断端に腫瘍細胞が残っていないかも評価します。
細胞診で悪性が疑われた場合も、最終的な腫瘍の分類や浸潤の評価には、病理組織検査が重要です。
5.治療:乳腺癌にはどのような治療を行う?
① 外科手術
手術が可能で、腫瘍の完全切除が期待できる場合には、外科的切除が第一選択の治療法となります。
腫瘍の大きさや位置、周囲組織への浸潤の程度に応じて、腫瘤のみを切除する方法や、乳腺組織を含めて切除する方法などを検討します。腫瘍を完全に取り切ることは、局所再発のリスクを減らすうえで重要です。ただし、必要な切除範囲は腫瘍の性質や解剖学的位置によって異なり、一律には決められません。
モルモットは小型動物であり、麻酔や術後管理には特別な配慮が必要です。術前には全身状態を評価し、術後は体温、疼痛、食欲、排便などを慎重に管理します。特に、術後の食欲低下は消化管運動の低下につながることがあるため、早期からの状態確認が大切です。
② 抗がん剤治療
犬や猫の一部の乳腺癌では、症例に応じて抗がん剤治療が検討されます。しかし、モルモットの乳腺癌では、抗がん剤の有効性や標準的な治療法に関する情報が限られています。
そのため、すべての症例に抗がん剤を使用するわけではありません。
腫瘍の種類、転移の有無、切除の可否、全身状態などを踏まえ、専門的な判断のもとで適応を検討します。
③ 緩和ケア
腫瘍の完全切除が難しい場合や、麻酔・手術の負担が大きい場合には、苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を維持することを目的とした治療を選択することがあります。疼痛管理、創傷管理、栄養管理などを行い、食欲や活動性、体重を継続的に確認します。
緩和ケアは何もしないということではありません。動物の状態に合わせて、できる限り快適に生活できるよう支援する治療です。
6.予後:乳腺癌は治るの?
予後は、腫瘍の種類、悪性度、大きさ、浸潤の程度、転移の有無、完全切除ができたかどうかなどによって異なります。
比較的良好な経過が期待できるケース
- 腫瘍が限局している
- 周囲組織への浸潤が少ない
- 転移が確認されていない
- 手術によって腫瘍を完全に切除できた
このような場合には、長期的に良好な経過をたどる可能性があります。
注意が必要なケース
- 腫瘍が急速に増大している
- 周囲組織に強く癒着している
- 皮膚の潰瘍や出血がある
- 切除断端に腫瘍細胞が残っている
- 転移が確認されている
このような場合には、再発や病状の進行に注意が必要です。
7.飼い主さんに気をつけてほしいこと
日頃から、モルモットの胸部から腹部、鼠径部にかけて、左右の乳腺周囲をやさしく確認しましょう。
特に、次のような変化があれば、早めに動物病院へご相談ください。
- 新しいしこりを見つけた
- 以前からあるしこりが大きくなった
- しこりの表面が赤くなった、出血した
- 食欲や体重に変化がある
まとめ
モルモットの乳腺癌は、メスだけでなくオスにも発生する悪性腫瘍です。乳腺のしこりには良性腫瘍や脂肪腫なども含まれるため、見た目だけで判断することはできません。
診断では、身体検査や細胞診、必要に応じた画像検査を行い、病理組織検査によって腫瘍の性質を確認します。治療は外科手術を中心に、腫瘍の状態や全身状態に応じて検討します。
しこりを見つけたら、大きくなるまで様子を見るのではなく、早めに動物病院で相談することが大切です。
症例紹介
モルモット、4歳の男の子です。
2か月前から下腹部にしこりがあるとのことで来院されました。
触診では乳頭を巻き込んで腫瘤があり、皮下の筋肉と癒着していそうで、可動性はなく、やや硬結感がありました。

腫瘤の部位的には乳腺腫瘍も疑うものでしたが、今回はまずは腫瘤の切除を第一目的として片側乳腺切除術を行いました。
病理組織学的検査の結果、
下腹部腫瘤は「乳腺癌(単純型)」 と診断されました。
ヒトを含めた多くの哺乳類では乳腺腫瘍はメスに起こりやすい病気ですが、モルモットの場合はオスメスを問わず発生率が高いことが他の動物種とは異なります。ですので、下腹部に腫瘤ができたら乳腺腫瘍の可能性があり、放置するとどんどん大きくなってしまうことがあります。
しかし、乳腺以外にも身体の表面にしこりができることはよくあるので、日常的に全身をよく触ってチェックしてあげてください。
モルモットをはじめとするエキゾチックアニマルの診療では、動物の種類や体の特徴に合わせた検査・治療が大切です。しこりや体調の変化が気になる場合は、お早めにご相談ください。
