こんにちは。京都市のいなば動物病院です。
犬の椎間板ヘルニアは、痛みや麻痺を引き起こし、愛犬の生活の質を大きく左右する可能性のある病気です。しかし、早期に正しい知識を得て、適切な対応をすることで、そのリスクを最小限に抑えることができます。
今回は、椎間板ヘルニアの症状レベルの判断方法、考えられる原因、最新の治療法、そしてご家庭で今日から始められる予防・ケア方法を解説します。
犬の椎間板ヘルニアとは?背骨のクッションが飛び出す病気
犬の椎間板ヘルニアとは、背骨(脊椎)の骨と骨の間でクッションの役割を果たしている「椎間板」という組織に異常が起こる病気です。
何らかの原因で椎間板の中身が飛び出し、背骨の中を通る非常に重要な神経の束である「脊髄」を圧迫してしまうことで、痛みや麻痺などの神経症状を引き起こします。
椎間板の仕組みと2つのヘルニアタイプ(ハンセン1型・2型)
椎間板は、中心部にあるゼリー状の「髄核(ずいかく)」と、それを取り囲む丈夫な「線維輪(せんいりん)」という二重構造になっています。
この構造のおかげで、ジャンプなどの衝撃を和らげ、背骨がしなやかに動くことができるのです。
犬の椎間板ヘルニアは、椎間板の変性の仕方によって、主に2つのタイプに分けられます。
それぞれの特徴を下の表にまとめました。
| タイプ | ハンセン1型 | ハンセン2型 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 髄核が硬くなり、線維輪を突き破って急激に飛び出す | 線維輪が加齢などにより変形し、徐々に脊髄を圧迫する |
| 症状の現れ方 | 突然、激しい痛みや麻痺が起こる(急性) | ゆっくりと症状が進行する(慢性) |
| 好発犬種 | ダックスフンド、コーギーなどの軟骨異栄養犬種に多い | 上記以外の犬種や、高齢犬に多い |
| 発症年齢 | 比較的若い年齢(3〜6歳)で発症しやすい | 高齢(8歳以上)で発症しやすい |
【症状セルフチェック】愛犬のサインを見逃さないで!5段階の重症度(グレード)
椎間板ヘルニアの症状は、脊髄がどれくらい圧迫されているかによって、5段階のグレードに分類されます。
グレードが低いほど、回復の可能性も高くなります。
愛犬に当てはまる行動がないか、注意深く観察してみましょう。
| グレード | 主な症状 | 緊急度 |
|---|---|---|
| グレード1 | 痛みのみ。軽度な症状で見逃しやすい。 | ★★★☆☆ |
| グレード2 | 軽度の麻痺(ふらつき)。歩き方に異常が見られる。 | ★★★☆☆ |
| グレード3 | 重度の麻痺。自力で立てない、歩けない。 | ★★★★☆ |
| グレード4 | 排尿・排便のコントロールができない。 | ★★★★★ |
| グレード5 | 深部痛覚の消失。痛みを感じない。 | ★★★★★ (超緊急) |
グレード1:痛みだけの初期症状「抱っこを嫌がる」「震えている」
最も見逃しやすい初期段階では、麻痺はなく痛みだけが見られます。
普段との様子の違いに気づくことが、早期発見の鍵となります。
- 抱っこしようとすると「キャン」と鳴いたり、嫌がったりする
- 背中を丸めてじっとしている
- 震えが止まらない
- 元気や食欲がない
- 好きだったソファや段差を避けるようになった
グレード2:軽度の麻痺「歩き方がおかしい」「足を引きずる」
痛みとともに、軽度の神経症状が現れる段階です。
歩き方に明らかな異常が見られるため、飼い主さんが気づきやすい症状と言えます 。
- 後ろ足がもつれて、ふらふらと歩く
- 腰が砕けるように座り込むことがある
- 足の甲を地面に擦って歩く(ナックリング)
- 歩幅がいつもより狭い
- 立ち上がり方がぎこちない
グレード3:重度の麻痺「後ろ足が動かない」「立てない」
脊髄への圧迫が強くなり、後ろ足が麻痺して自力で歩くことが困難になります。
この段階からは、外科手術が選択肢として考えられることが多くなります。
前足だけで体を引きずって移動しようとすることもあります。
グレード4:排尿・排便のコントロールができない
麻痺がさらに進行し、自分の意思で排尿や排便ができなくなります。
膀胱がパンパンに張っても尿を出せないため、飼い主さんがお腹を圧迫して排尿を補助する「圧迫排尿」などのケアが必要になる場合があります。
グレード5:深部痛覚の消失「足を強くつねっても感じない」【緊急】
最も重篤な状態で、一刻を争う緊急事態です。
深部痛覚とは、骨をつねられた時に感じる深い部分の痛みの感覚を指します。
この感覚がなくなると、脊髄が深刻なダメージを受けているサインであり、治療しても回復が極めて困難になる可能性があります。
なぜ椎間板ヘルニアになるの?考えられる3つの主な原因
愛犬が椎間板ヘルニアになってしまう原因は、一つだけではありません。
遺伝的な要因、加齢、そして日々の生活習慣など、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的要因:かかりやすい犬種(軟骨異栄養犬種)
椎間板ヘルニアには、遺伝的に発症しやすい犬種が存在します。
特に「軟骨異栄養犬種」と呼ばれるわんちゃんは、若い頃から椎間板の変性が起こりやすい体質を持っています 。
| 犬種分類 | 具体的な犬種名 |
|---|---|
| 軟骨異栄養犬種 | ミニチュア・ダックスフンド、ウェルシュ・コーギー、フレンチ・ブルドッグ、シーズー、ビーグル、ペキニーズ など |
| その他の好発犬種 | トイ・プードル、マルチーズ、コッカー・スパニエル など |
これらの犬種を飼っている場合は、後述する予防策を特に意識して生活することが重要です。
加齢による椎間板の老化
犬も人間と同じように、年を重ねると体の様々な部分が老化します。
椎間板も例外ではなく、加齢とともに水分が失われて弾力性が低下し、硬くもろくなっていきます。
これにより、少しの衝撃でも椎間板が傷つきやすくなり、ヘルニアを発症するリスクが高まります。
物理的要因:肥満、激しい運動、生活環境
遺伝や加齢とは異なり、飼い主様の心がけでリスクを減らすことができるのが物理的な要因です。
特に注意したいのは以下の点です。
- 肥満: 体重オーバーは、常に背骨に大きな負担をかけ続ける最大の危険因子です。
- 激しい運動: フリスビーやボール遊びでの急なジャンプ、急な方向転換は背骨に大きな負担をかけます 。
- 生活環境: フローリングなどの滑りやすい床、ソファや階段からの飛び降りは、ヘルニアの引き金になり得ます。
動物病院での診断と治療法の選択肢
愛犬にヘルニアが疑われる症状が見られたら、自己判断せずにすぐに動物病院を受診してください。
適切な検査を通して診断を確定して、その子に合った最適な治療法を提案して貰いましょう 。
診断方法:問診、神経学的検査からCT・MRI検査まで
正確な診断を下すために、いくつかの検査を組み合わせて行います。
| 検査方法 | 目的と特徴 |
|---|---|
| 問診・視診・触診 | 飼い主さんから症状の経過を聞き、歩き方や体の痛む場所を確認する基本的な診察です。 |
| 神経学的検査 | 足先の位置感覚や反射などをチェックし、神経のどこに異常があるのかを調べます。 |
| レントゲン検査 | 骨の変形や他の病気の可能性を除外するために行いますが、椎間板や脊髄自体は写りません。 |
| CT・MRI検査 | 飛び出した椎間板や脊髄の圧迫の程度を鮮明に写し出すことができます。確定診断や手術計画に不可欠です。 |
内科的治療(保存療法):安静と投薬で回復を待つ
症状がグレード1〜2の軽度な場合に選択されることが多い治療法です。
治療の基本は「絶対安静」であり、これが最も重要な治療となります。
- ケージレスト: ケージやサークルの中で過ごさせ、動きを厳しく制限します。トイレや食事以外は出さないように徹底します。
- 投薬: 炎症を抑える薬(ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬)や、痛み止めの薬を使用して、わんちゃんの苦痛を和らげます。
外科的治療:脊髄の圧迫を取り除く手術
グレード3以上の重度な場合や、内科治療で改善しない場合に検討されます。
手術では、飛び出して脊髄を圧迫している椎間板物質を物理的に取り除きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 脊髄の圧迫を解除し、神経機能の回復を目指す |
| メリット | 根本的な原因を取り除くことができる。早期に行うほど回復率が高い。 |
| デメリット | 全身麻酔のリスクがある。術後の安静やリハビリが必要。 |
手術後は、獣医師の指示に従った厳重な管理と、機能回復のためのリハビリテーションが非常に重要になります 。
新しい選択肢「再生医療(幹細胞治療)」とは?
近年、新たな治療の選択肢として「再生医療」が注目されています。
これは、犬自身の体から採取した幹細胞を培養し、点滴などで体内に戻す治療法です。
まだ標準的な治療ではありませんが、損傷した神経の修復を促す効果が期待されています。
| 項目 | 従来の治療法(外科手術) | 再生医療(幹細胞治療) |
|---|---|---|
| 体への負担 | 大きい(全身麻酔・切開) | 小さい(点滴投与など) |
| 対象 | 主にグレード3以上 | 幅広いグレード、手術が困難な場合 |
| 位置づけ | 標準的な治療法 | 先進的な治療法(研究段階) |
外科手術が難しい高齢犬や他の病気を持っている犬にとって、新たな希望となる可能性があります。
治療後も大切!予防と再発防止のために家庭でできること
椎間板ヘルニアは、一度良くなっても再発する可能性がある病気です。
治療が終わった後も、日々の生活の中で背骨に負担をかけない工夫を続けることが、愛犬の健康寿命を延ばすことに繋がります。
【重要】食事管理と適正体重の維持
予防において最も重要なのは、肥満を防ぎ、適正な体重を維持することです。
獣医師と相談しながら、その子に合った食事量やフードを選びましょう。
肋骨がうっすらと触れるくらいが理想的な体型です。
安全な生活環境の整備(床材・スロープ・爪切り)
家庭内に潜むヘルニアのリスクを取り除きましょう。
以下の項目をチェックしてみてください。
| 対策項目 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 床の滑り止め | フローリングにはカーペットやマットを敷く、滑り止めワックスを塗る。 |
| 段差の解消 | ソファやベッドにはペット用のスロープやステップを設置する。 |
| 足元のケア | 爪や足裏の毛を定期的にカットし、しっかり地面を掴めるようにする。 |
背骨に負担をかけない運動と正しい抱っこの仕方
運動は筋力維持に必要ですが、やり方には注意が必要です。
また、日常的に行う抱っこの仕方も見直してみましょう。
| 項目 | OKなこと | NGなこと |
|---|---|---|
| 運動 | ウォーキングや水中運動など、背骨に負担の少ない運動。 | 急なジャンプ、急旋回、長時間の激しい運動。 |
| 抱っこ | 背骨が地面と水平になるように、お腹と胸の下からしっかり支える 。 | 縦抱きや、脇だけを持って持ち上げる抱き方。 |
もし放置したらどうなる?知っておきたい椎間板ヘルニアのリスク
「少し様子がおかしいだけかも」と受診をためらってしまうと、症状が深刻化する恐れがあります。
椎間板ヘルニアを放置した場合、以下のような経過をたどる可能性があります 。
- 痛みの慢性化: 常に痛みを抱えることになり、生活の質が著しく低下します。
- 麻痺の進行: グレードが徐々に進行し、歩行困難に至ります。
- 排泄障害: 自力での排尿・排便ができなくなり、常時介護が必要になります。
- 後遺症: 治療が遅れるほど、完全な回復が難しくなり、麻痺などの後遺症が残る可能性が高まります。
早期発見・早期治療が、愛犬の苦痛を最小限に食い止め、回復の可能性を最大限に高めるための最善策です。
まとめ:愛犬のサインに気づき、早期治療で未来を守ろう
犬の椎間板ヘルニアは、どんな犬にも起こりうる病気ですが、特に好発犬種では注意が必要です。
普段から愛犬の歩き方や行動をよく観察し、「いつもと違う」と感じたら、それは病気のサインかもしれません。
この記事でご紹介した症状のチェックリストや予防策を参考に、日々の生活を見直してみてください。
そして、少しでも不安なことがあれば、ためらわずに動物病院を受診することが、愛犬の健やかな未来を守ることに繋がります。
いなば動物病院
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