うさぎのエンセファリトゾーン症とは?原因・症状から治療法、検査まで解説

こんにちは、いなば動物病院です。

大切な家族であるうさぎさんがある日突然、頭や首を傾けたり(斜頸)、目が揺れてたり(眼振)、真っ直ぐ立てない・歩けない姿(ローリング)を見ると、何の病気だろうと、大きな不安に襲われると思います。これらの症状は「エンセファリトゾーン症」と呼ばれる病気である可能性があります。

今回は、そんな飼い主さんの不安に寄り添い、「エンセファリトゾーン症」について、原因から症状、最新の治療法までを分かりやすく解説します。

まずは知ってほしい|うさぎのエンセファリトゾーン症とは?

エンセファリトゾーン症とは、「エンセファリトゾーン・クニクリ」という寄生虫が原因で起こる病気です。この寄生虫は、主に脳や腎臓、目に寄生し、炎症を起こすことで様々な症状を引き起こします。

実は、日本のペットうさぎの半数以上が、この寄生虫を体内に持っている(感染している)といわれています 。
しかし、感染しているうさぎのほとんどは、生涯に渡って何も症状が出ないまま元気に過ごします。
しかし、何らかのきっかけで免疫力が低下した時に体内に潜んでいた寄生虫が活発になり、「発症」してしまうのです。

つまり、「感染していること」と「病気を発症すること」はイコールではありません。
たとえ発症してしまっても、早期に適切な治療を開始することで、症状をコントロールし、穏やかな生活を取り戻せる可能性は十分にあります。

【症状セルフチェック】うちの子は大丈夫?見逃したくないサイン一覧

エンセファリトゾーン症の症状は、寄生虫が体のどこで悪さをしているかによって様々です。
うさぎの様子と照らし合わせながら、一つずつ確認してみてください。
もし当てはまる項目があれば、できるだけ早く動物病院に相談しましょう。

最も特徴的な「神経系の症状」(斜頸・眼振・ローリング)

飼い主さんが最も気づきやすく、心配になるのが神経系の症状です。
これらは、脳や平衡感覚を司る器官に炎症が起きることで発生します。

症状の種類具体的な様子
斜頸(しゃけい)首が片方に傾いたまま戻らない状態です。最も代表的な症状の一つです。
眼振(がんしん)自分の意思とは関係なく、眼球が小刻みに揺れ動きます。水平、垂直、回転など揺れ方は様々です。
運動失調体がふらついたり、まっすぐ歩けなくなったりします。何もないところでつまずくこともあります。
ローリング自分の体をコントロールできず、同じ方向にゴロゴロと転がり続けてしまう状態です。緊急性が高い症状です。
後肢麻痺後ろ足の動きが悪くなったり、力が入らなくなったりします。
痙攣発作体が硬直し、ガクガクと震える発作を起こします。

これらの症状に気づいたら、すぐに動画を撮影しておくことをお勧めします。
動物病院では症状が出ていないことも多く、動画が診断の非常に重要な手がかりになります。

目に現れる症状(白内障・ぶどう膜炎など)

特に、お母さんうさぎから胎盤を通じて感染した若い子に多く見られるのが、目の症状です。
うさぎの白内障の主な原因の一つが、このエンセファリトゾーン症だといわれています 。

  • 目が白く濁ってきた(白内障)
  • 目が赤く充血している、しょぼしょぼしている(ぶどう膜炎)
  • 目の中に白い塊のようなものが見える(眼内膿瘍)

日頃のコミュニケーションの中で、目の様子も注意深く観察してあげてください。

気づきにくい腎臓の症状やその他のサイン

見た目では分かりにくいですが、腎臓に寄生虫が感染し、機能が低下してしまうこともあります。
また、全身的な不調として現れるサインも見逃さないようにしましょう。

  • お水を飲む量や、おしっこの量が急に増えた(多飲多尿)
  • 食欲が落ちてきた、体重が減ってきた
  • なんとなく元気がない、じっとしている時間が増えた

これらの症状は他の病気でも見られるため、エンセファリトゾーン症だと断定はできません。
しかし、「いつもと違う」と感じたら、それは愛うさぎからの大切なSOSサインです。

なぜ?エンセファリトゾーン症の原因と発症のメカニズム

「どうしてうちの子が?」と、ご自身を責めてしまう飼い主さんもいるかもしれません。
しかし、この病気は飼育環境の良し悪しだけで決まるものではありません。
まずは、原因と発症の仕組みを正しく理解しましょう。

原因は微小な寄生虫|主な感染経路と発症の引き金

原因となるのは「エンセファリトゾーン・クニクリ」という、目には見えないほど小さな原虫(寄生虫)です。
主な感染経路は、感染したうさぎの尿中に排出された胞子を、他のうさぎが口から摂取してしまうことです 。ケージや食器、牧草などが汚染されることで感染が広がります。

しかし、前述の通り、感染してもほとんどの場合は発症しません。
発症の引き金となるのは、主に「免疫力の低下」です。

発症の主な引き金具体的な例
ストレス引っ越し、新しいペットを迎える、大きな物音(工事や雷)、来客など
加齢高齢になると、人間と同じように免疫力が自然と低下します。
他の病気歯の不正咬合、子宮疾患、パスツレラ症など、他の病気の治療で体力が落ちているとき。
環境の変化梅雨や台風などによる急な気圧の変化、季節の変わり目の寒暖差など。

決して「飼い方が悪かったから」ではなく、様々な要因が重なって発症に至るケースがほとんどなのです。

診断はどう進める?動物病院での検査の種類と流れ

エンセファリトゾーン症の診断は、実は非常に難しいとされています。
一つの検査だけで確定することはできず、獣医師は様々な情報を組み合わせて総合的に判断します。
飼い主さんが検査の目的を理解しておくことで、安心して治療に臨むことができます。

症状の確認と他の病気(内耳炎など)との鑑別診断

まず、獣医師は飼い主さんから詳しく話を聞き、うさぎの神経症状などを注意深く診察します。
特に斜頸のような症状は、エンセファリトゾーン症以外に、細菌感染による「内耳炎」でも起こることが非常に多いです。

そのため、どちらの可能性が高いかを見極めることが重要になります。
レントゲン検査や、より詳しく脳や耳の内部を調べるためにCT・MRI検査を行うこともあります。
これらの画像診断は、似た症状を引き起こす他の病気(脳腫瘍や外傷など)の可能性を排除するためにも役立ちます。

血液で行う「抗体検査」で何がわかる?その限界と注意点

血液検査では、エンセファリトゾーンに対する「抗体」があるかどうかを調べることができます。
しかし、この結果の解釈には注意が必要です。

抗体の種類わかること診断上の注意点
IgG抗体過去に感染したことがあるかを示します。一度陽性になると長期間持続します。日本のうさぎの半数以上が陽性のため、陽性であっても現在の症状の原因とは限りません
IgM抗体最近感染したか、または再活性化した可能性を示唆します。比較的短期間で低下します。症状があっても必ずしも上昇するとは限らず、陰性でも病気を否定はできません。

最も重要なポイントは、抗体検査が陽性だったとしても、それが今の症状の原因だと確定できるわけではないということです。
獣医師は、症状や他の検査結果と合わせて、慎重に診断を進めていきます。

どんな治療をするの?回復への道のりと飼い主ができること

エンセファリトゾーン症の治療は、寄生虫を完全に体から追い出すことではなく、増殖を抑えて症状を和らげ、うさぎの生活の質(QOL)を維持することが目標となります。
飼い主さんの手厚い看護が、回復への大きな力となります。

治療の基本となる薬物療法と支持療法

治療は、主に「薬物療法」と、体力を支える「支持療法」を組み合わせて行います。

治療の種類内容と目的
薬物療法・駆虫薬(フェンベンダゾールなど): 寄生虫の増殖を抑える中心的な薬です。最低でも28日間、長期間の投薬が必要です 。
・抗炎症薬(ステロイド、NSAIDs): 脳や神経の炎症を抑え、症状を和らげます。
・抗生剤: 細菌による内耳炎などを併発している可能性がある場合に用います。
・その他: 痙攣発作を抑える薬や、神経機能をサポートするビタミン剤など。
支持療法・輸液療法(点滴): 食欲不振による脱水を防ぎ、体の循環を助けます。
・栄養サポート(強制給餌): 食欲がない場合、シリンジで流動食を与え、胃腸の動きを止めないようにします。これは非常に重要です。

獣医師がうさぎの状態を総合的に判断し、これらの治療法を適切に組み合わせていきます。

自宅でできる看護のポイント(環境・食事の工夫)

お薬と並行して、お家でのケアがうさぎの回復を大きくサポートします。
不安な気持ちでいっぱいのうさぎが、少しでも快適に過ごせるように環境を整えてあげましょう。

  • 安全なスペースの確保
    • ケージの床には、滑りにくくクッション性のあるマットやタオルを敷き詰めます。
    • 転倒した際にぶつかって怪我をしないよう、硬いおもちゃや角のあるものは撤去します。
    • ローリングが激しい場合は、一時的に狭いキャリーケースなどに入れると落ち着くことがあります。
  • 食事と水の工夫
    • 首が傾いていると給水ボトルから飲みにくくなるため、重さのある陶器のお皿に水を入れてあげます。
    • 牧草もフィーダーから食べにくいため、床に山盛りに置いてあげると食べやすくなります。
  • ストレスの軽減と衛生管理
    • 静かで落ち着ける場所にケージを置き、大きな音や急な光などの刺激を避けます。
    • 体が汚れてしまった場合は、濡らしたタオルで優しく拭き、清潔を保ちます。

見守りすぎることもストレスになる場合があります。
うさぎが落ち着けるよう、適度な距離感を保ってあげることも大切です。

治療後の予後と後遺症との付き合い方

治療への反応は、症状の重さや治療開始の早さによって様々です。
残念ながら、腎臓にまで症状が出ている場合や、治療への反応が悪い場合は、厳しい結果になることもあります。

しかし、多くの場合は治療によって症状が改善し、穏やかな生活を取り戻すことができます。
治療後も、首の傾き(斜頸)などの後遺症が残ることは珍しくありません。

でも、心配しすぎないでください。
うさぎはとても順応性が高く、たとえ首が傾いたままでも、自分で上手にバランスを取る方法を学び、元気に走り回ったり、大好きな牧草を食べたりできるようになります。
その姿は、私たちに生きる強さと勇気を与えてくれるはずです。

よくある質問|予防方法・人間への感染は?

飼い主さんからよく寄せられる質問について、Q&A形式でお答えします。

Q1. 完全に予防する方法はありますか?
A1. 感染自体を100%防ぐことは困難です。そのため、「発症させない」ための免疫力維持が最も重要な予防策となります。
ストレスの少ない環境: 静かで安心できる生活空間を提供しましょう。
バランスの良い食事: 牧草を中心とした高繊維質な食事を心がけましょう。
清潔な飼育環境: ケージの掃除を徹底し、衛生的に保ちましょう。
定期的な健康診断: 症状が出る前に体の異常を発見するためにも、年に1〜2回は健康診断を受けましょう 。

Q2. 人間や他のペット(犬など)にうつりますか?
A2. エンセファリトゾーンは人獣共通感染症の一つですが、健康な人がうさぎから感染して発症するリスクは極めて低いと考えられています。免疫機能が著しく低下している方(例:抗がん剤治療中の方、HIV感染者など)は注意が必要ですが、過度に心配する必要はありません。犬への感染も報告はありますが、こちらもまれです。心配な場合は、かかりつけの医師や獣医師に相談してください。

まとめ:うさぎの異変は動物病院へ。早期相談が未来を変える

エンセファリトゾーン症は、診断も治療も一筋縄ではいかない複雑な病気です。
しかし、その正体を知り、適切なステップを踏むことで、うさぎを苦しみから救う道筋は見えてきます。

この記事で最も伝えたいことは、「いつもと違う」というあなたの直感を信じ、決して「様子を見よう」と自己判断せず、できるだけ早く動物病院に相談してほしいということです。
特にうさぎの診療に詳しい、エキゾチックアニマルを専門とする獣医師に診てもらうことが重要です 。

飼い主さんの迅速な判断と、深い愛情に基づいた日々のケアが、うさぎの未来を守る一番の力になると思います。


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